三味線の工房へ行ったのは先々週の日曜日が初めてで、前の晩は緊張して眠れなかったのを覚えてる。もしかしたら将来これが自分の仕事になるのかなぁ、と思いながら電車に揺られて一時間。そういえば体調も悪かった。後から病院に行ったら季節はずれの風邪を引いていたよう。待ち合わせの11時よりも少し早めに最寄りの駅に着き、そのまま工房までの一本道を歩く。工房に入ると職人のおじいちゃんとおばあちゃん、先輩の三人が玄関からすぐのキッチンに座っていた。初めてのことだからと、先輩の作った資料を片手に皮張りの工程についての説明を受ける。30分ほど経った頃、楽器屋から修理を依頼された三味線の胴が届く。さっき受けたばかりの工程の説明を、実際の作業を見ながらおさらいをする。6畳程度の作業場に4人。皮張りの前準備をおばあちゃんが進めていく。準備の済んだものから順に、おじいちゃんが皮の選定と、その説明をしてくれる。正直まったく頭に入ってこない。実際に手を使う場面が待ち遠しい。あと、頭痛とだるさが中々にしんどい。出そうになる咳を我慢することに集中力が削がれる。少し咳が漏れる。意識を説明とおじいちゃんの手元に戻す。作業は淡々と進む。その難しさはまったくわからない。無駄が無いのがなんとなく判る程度。咳が出ないように返事の時にしか声を発しないようにする。体力の使い方に気をつける。終わりの時間が決まっていないのでセーブしてもしすぎることは無い。じゃあ、これやっておいて。と、突然のりづけを任される。もう少し集中して手元を見ておけば良かった。どこに注目すればいいのかは解らなかったけど、ぼわぼわとしながらでも体力をセーブしすぎた事を少し反省した。2個3個と任された作業をしながら力の加減を調整していく。細かいところに意識を集中させることはやはり好きらしい。指のこのへんに力を入れよう、とか、へらの角度をもう少し立てよう、とか。身体の中に意識を潜らせていく感じ。具体的な作業が伴うと職人の凄さが判る。技を盗んでやろうと思えるのは自分が狡くなる感じがして楽しい。他の工程は殆ど見学で終わってしまったけれど、手を動かすことを想像しているだけでも、自分が興奮しているのが解った。頭で考えることを少し休んで、ものを作ることで起こる身体の変化を楽しもうと思う。